大判例

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最高裁判所第二小法廷 昭和41(あ)3016 判決

主 文

原判決および第一審判決を破棄する。

被告人を懲役五月に処する。

この裁判が確定した日から三年間右の刑の執行を猶予する。

訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理 由

弁護人黒田慶三の上告趣意第一点は、違憲をいうが、実質は単なる法令違反の主

張であり、同第二点は、量刑不当の主張であつて、いずれも適法な上告理由にあた

らない。

しかし、所論にかんがみ職権をもつて調査すると、原判決および第一審判決は、

後記のように、刑訴法四一一条二号により破棄を免れないものと認められる。

第一審判決は、「被告人は、昭和三九年五月三〇日ごろAから金額一〇万円の約

束手形一通の割引方を依頼され、同日福岡市a町b丁目B商事事務所においてCに

右約束手形を八万八千円で割り引いてもらい、同日四万円、同年六月一日残金四万

八千円をそれぞれ同人より受け取り、右Aのため保管中、そのころ筑紫郡c町内に

おいて右金員合計八万八千円をほしいままに自己の生活費等に費消し、もつて横領

した」との事実を認定したうえ被告人を懲役五月の実刑に処し、原審はこれを是認

した。

しかし、記録を調べてみると、被告人は広島県立D商業高校を卒業し、以後E、

F各勤務、映画館自家営業等の職を経て配管工となり、建材店に雇われるほか個人

としても配管工事を請け負い、本件当時二七才の前途春秋に富む身であつて、当時

二六才の妻と二才の長男を扶養し、昭和三六年道路交通法違反により罰金四千円に

処せられたことがあるほかは、これまで一切犯歴がなく、平素の素行上特に非難す

べき点も認められない。

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次に、本件犯行の内容を検討してみると、記録によれば、被告人は仕事の上の知

り合いである建築請負業Aから同人振出の約束手形一通(金額一〇万円)の割引を

依頼され、被告人自身の裏書をしたうえ、前にも五、六回手形を割り引いてもらつ

たことのあるB商事こと金融業Cに右手形を持参して八万八千円で割り引いてもら

い、二回にわたり合計現金八万八千円を受領し、右Aのため保管中、自己の材料費

等の支払資金に窮したところから、右金員を工事材料購入費等に費消してしまつた

ものであることが認められる(第一審の判示には「自己の生活費等に費消し」とあ

るが、記録によれば、生活費に費消した金額は総額のうち約四分の一程度であつて、

残りはすべて営業費に費消されている事実が認められる。)。

すなわち、本件犯行の動機としては、仕事の資金に困つていたとき、たまたま現

金を手にしたため、自己の工事資金に流用したということであり、さしせまつた生

活費等にも一部費消されてはいるが、遊興費等には一切あてられておらず、本件は

財産犯の中では比較的法定刑の軽い単純横領の罪であり、犯罪個数はわずか一回で、

被害金額は約八万円余にすぎず、直接の被害者であるAは本件手形を不渡にしてゆ

くえをくらましたので、現実の損害は蒙つていない。しかも、間接的被害者という

べきCはいわゆる町の高利貸であつて、被告人からの分割弁済の要請に応じないば

かりか、被告人が一部弁済の提供をしたにもかかわらず、これを拒否したため示談

が成立するにいたらなかつた事情も、記録上うかがうことができる。

以上述べた被告人の経歴、年令、職業、家族関係、本件犯行の動機、罪責、個数、

態様、被害金額、取得した金員の費消状況、示談交渉の経過等一切の情状を考慮す

ると、本件は刑の執行猶予を言い渡すべき事案であるにもかかわらず、第一審判決

が被告人を懲役五月の実刑に処し、原判決がこれを維持したのは、刑の量定が甚し

く不当であつて、これを破棄しなければ著しく正義に反するものと認める。

よつて、刑訴法四一一条二号により第一審判決およびこれを維持した原判決を破

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棄し、同法四一三条但書により第一審判決が適法に確定した事実に法律を適用する

と、被告人の所為は刑法二五二条一項に該当するので、所定刑期の範囲内で被告人

を懲役五月に処し、前示の情状にかんがみ同法二五条を適用して、この裁判が確定

した日から三年間右刑の執行を猶予することとし、第一審および当審における訴訟

費用については、刑訴法一八一条一項本文によりこれを全部被告人の負担とし、裁

判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

検察官 勝田成治公判出席

昭和四二年一二月一日

最高裁判所第二小法廷

裁判長裁判官 奥 野 健 一

裁判官 草 鹿 浅 之 介

裁判官 城 戸 芳 彦

裁判官 石 田 和 外

裁判官 色 川 幸 太 郎

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